1.はじめに


 今、日本の学校教育は、大きな変化を迎えつつある、と私は思う。
 「ゆとり教育」を推し進めてきたために生じた学力格差の反省から、「脱ゆとり教育」への動きが起こり始めている。文部科学省は新たなテーマ「生きる力」を掲げ、詰め込み教育でもなければ、ゆとり教育でもない、今の社会を子どもたちが生き延びる(ここで言う「生き延びる」は1つの生命としてではなく、優秀な人格形成と他者とのコミュニケーションの意味である)ことができるように、という目的を持っている。(※1

 この「生きる力」というテーマを掲げた新学習指導要領は、現在、学校が抱えている問題に対応しようとする形である。しかし、何も「ゆとり教育」への反省だけが問題ではない。数年ほど前に「小学校は無償教育なのだから給食費は払わない」と主張する保護者が存在する、というニュースが話題になった。いわゆる「モンスターペアレント」と呼ばれる保護者である。
 我が子が学校で不当な扱いを受けている、と知るや否や学校に向かい、納得するまで延々と学校側に詰め寄る。なかには、金銭の要求や訴訟問題、暴力団関係者との結託による脅迫といった悪質なケースに発展する場合もあると言う。

 生徒の学力低下、モンスターペアレントの存在、と家庭側から見た問題がすべてでもない。
 教師側にも、さまざまな問題が巻き起こっていると考えることができる。「教員免許更新制」が平成21年より施行されはじめ、教師の質の向上を狙う一方、教員に国旗掲揚と国歌斉唱を義務付ける、「国旗国歌法」(正式には国旗及び国家に関する法律)の制定などによる(教師も含めた)愛国心教育がされるようになった。
 新学習指導要領の第1章総則、第1「教育課程編成の一般方針」の2にもこんな記述がある。

『道徳教育は,(中略)伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し,(中略)主体性のある日本人を育成するため,その基盤としての道徳性を養うことを目標とする。』※2

 この愛国心教育という部分に、私はとても注目している。
 文学部の比較文化学科に在籍しているために、諸外国の多様な言語や文化を知る機会が多く、講義を受けるたびに、それらの国々の持つ良さが見えてくる。「隣の芝は青い」という言葉があるが、まさにそれかもしれない。
 日本というアジアの端にあるこの国の良さとは、いったいなんであろうか。誇れるものはなんであろうか。



 さて、私は3年次のゼミナールにおいて8月に、3週間弱、ハワイ研修へと行ってきた。
 初めて体験するハワイは、驚きと感動の連続であった。(研修報告については別ページにて
 そんなハワイは、日本と歴史的にも経済的にもかなり密接な関係があることは、反論の余地が無いと思う。1868年に日本から出稼ぎ労働者としてハワイに渡った人々、元年者と呼ばれる彼らが現地で生活をはじめたことをきっかけとして、日本人と現地の人々との関係がはじまったとされているが、そこにはどんな交流があったのか、どんな問題があったのか、そういった疑問が、研修先でいろんな人の話を聴いているうちに湧いて出てきた。
 特に、先に挙げたように、私は教育関係に強い興味を持っている。日本からハワイに渡った人々の子どもたちは、果たしてどのような教育を受けてきたのか。徐々に私の疑問はそこへシフトしていったのである。



 この研究テーマ「ハワイにおける日本語学校と日本の学校の相互比較−歴史と教育システムから」は、そんな私の疑問を、ハワイの日本語学校と日本の学校の比較から探っていき、今日の日本の学校教育に生かすことができる部分を見つけ出すことを目的としている。
 まずは、ハワイの日本語学校について、その歴史と教育システムについて見ていき、日本の学校との違いを探る。
 次に、今日の日本の学校の問題点を、深く掘り下げていく。「愛国心教育」と「生きる力」の2つに主に目を向けていく。
 そして、日本の学校の問題点を解決・改善するために、ハワイの日本語学校から得られることが無いかを見つけ出す。この流れに沿って、話を進めていきたいと思う。

 なお、引用や参照した部分に際しては、一部を除いで※印で表記し、ページ下部に注釈をつけた。
 また一部の文献では、直接の引用の場合にunicodeによる環境依存文字をしなければならなくなるため、それを避けることから文字を現代の表記に直していることを予めご了承いただきたい。



<注釈>
※1 文部科学省公式ホームページ 新学習指導要領・生きる力を参照
※2 文部科学省公式ホームページ 新学習指導要領より一部引用



2.ハワイ日本語学校について
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