ハワイにおける日本語学校と日本の学校の

相互比較−歴史と教育システムから

関東学院大学 文学部 比較文化学科3年

20814069 諏訪原 大樹

 

 はじめに

1章 ハワイの日本語学校の歴史と目的

 1節 日本人移民と、日本語学校の誕生

 2節 アメリカによる同化政策の中の日本語学校

 3節 第二次世界大戦時の日本語学校

 4節 戦後の日本語学校

2章 教育システムの揺れ動き

 1節 日本語学校誕生当初

 2節 アメリカ化政策と、外国語学校取締法・教科書編纂問題

3章 日本語学校が、今日の日本の学校教育に生かされる可能性

1節 日本の「愛国心教育」とその問題点

2節 学校教育の補完性

結論

おわりに

 参考文献

 

論文内容と章立て

この研究はアメリカ合衆国のハワイに存在した「日本語学校」が、どういった経緯で作られ、日本の学校やハワイのほかの学校と何が異なるのか、当時のアメリカ人の反応はどうだったのかを、教育システムや学校の歴史といった観点から調べていき、今日の日本の教育に活かせることはあるかどうかを探っていく。

何故このような論文を書こうかと思ったか、その理由は、私が幼い頃より教師を目指していたことにある。

小学校4年生になる頃には、既に将来の夢は教師になること、と目的を持っていた私は、度々学校の授業の中にある自己学習の時間で、教育に関する様々なことを調べていた。最初は、教師になる方法だけを調べていたが、そのうち、教育を取り巻く問題についても関心を持つようになった。いじめや学級・学校崩壊といったテーマはもちろん、大学に入ってからは教職課程にて、「モンスターペアレント」と呼ばれる、生徒・児童の保護者の問題についての研究と発表も行った。また、いわゆる「愛国心教育」について、生徒・児童に日本という国を大切に思うよう教育しなければならない、教師が学校行事の際に国歌を歌わなければならない(公務員の職務として規定されている)といった内容が、今日の学校教育のなかの1つの問題として取り上げられている。これについても私は関心があり、愛国心とはいったい何なのかを疑問に思うことがある。

そして、その傍ら、大学のゼミナールでは、森島牧人教授のもとで「アメリカ合衆国と日系アメリカ人」をテーマとした研究を行うことになり、ハワイにおける日系アメリカ人に焦点を当て、20108月には約3週間にわたるハワイ研修を行った。このゼミナールのテーマと、私が以前より持っていた教育についての関心・疑問が合わさり、今回の研究内容である「ハワイにおける日本語学校と日本の学校の相互比較」が決まった。

ハワイに渡った日本人が、現地で建てた「日本語学校」は、ハワイに住むほかの人種の人々の考えやアメリカ合衆国の政策とは異なる。ハワイに居ながら、日本語をはじめとする教育を日本人移民の子どもたちに行うことは、日本人の血を受け継いでいることを子どもたちに認識してもらうのが目的だったのではないだろうか。そこから私は、日本人移民の子どもたちは、日本という国への、一種の「愛国心教育」を受けていたに違いないと思うようになった。日本語学校の教育は、今日の日本の学校教育が抱えている問題を解決する鍵を持っていると、私は考えている。特に、日本語学校が日章旗から米国旗へと掲げる旗を変更した、第二次世界大戦直前の動向は、「愛国心教育」をどう考えていくかにおいて、重要な手がかりになるはずである。

この論文では、その鍵を探りだし、今後の日本の学校教育に生かすことのできる可能性を示したいと思う。

第1章では、まずハワイに渡った日本人移民と、彼らが作った日本語学校の歴史、その目的について探っていく。どうしてハワイに移住した日本人がいたのか。何故、現地の教育機関ではなく「日本語学校」なのか。日本語学校が誕生した経緯と、その役割を第1節で述べていく。第2節では、1893年にハワイ王朝が終わりを告げ、アメリカ合衆国の一部となったことで、政府による同化政策(米化政策)がはじまった。これが、日本語学校にどのような影響を及ぼしたのか。また、白人やハワイ人たちは、日本語学校をどのように考えていたのか、日本人移民あるいは日系アメリカ人の当時の立場を含めて、述べていく。第3節では、第二次世界大戦(太平洋戦争)直前から終結に至るまでの日本語学校と、そこに教師として勤めていた人たちに焦点を当てて、彼らの活動から日系アメリカ人の立場を探っていく。戦争に関しては特に、真珠湾攻撃直後の日系アメリカ人強制収容に着目していく。そして、第4節では、戦後の日本語学校の流れを追っていく。ハワイにおける日本語学校の歴史と目的について確認するのが、この第1章の内容である。

 第2章では、今度は日本語学校における教育システムに注目する。歴史的背景をからめながら、使用されていた教科書、授業内容といった教育システムの変化が、生徒にどのような影響をもたらしたか。当時の日本の教育機関・教育システムと比較していき、日本語学校がアメリカ合衆国内にあることで、どのような違いを生んだのか、弊害や問題は無かったのかどうかを探っていく。第1節では、日本語学校が誕生した19世紀末から20世紀初頭を中心に見ていく。第2節では、アメリカ合衆国の同化政策から出てきた「外国語学校取締法」や「教科書編纂問題」を取り上げる。日本語学校に対するアメリカ人の不信感が、日本語学校の教育システムにどのような影響を与えたのかついて、当時のアメリカ合衆国政府やハワイ州政府などの動きと連動させながら考えていく。また、ハワイにおける日本語学校の教育システムに大きな影響を与えた「ハワイ教育会」という組織の動きも、この章において取り上げていく。この「ハワイ教育会」は、ハワイに存在する日本語学校全体をまとめる機関であり、日本語学校が持っていた諸問題に対する論議をしていたことから、教育システムを見ていく上で欠かすことのできないものである。

 第3章では、第1章と第2章を踏まえて、日本語学校の歴史や教育システムから、今日の日本の学校教育に生かすことができるものがないだろうか、という私の考えを論じていく。先にも挙げたように、私は、日本語学校が「愛国心教育」の場であり、その教育システムが、今日の日本の学校教育の抱えている問題を解決へと導く可能性を秘めていると考えている。それを第1節で述べていく。第2節では、日本語学校が、現地の学校の補完的な役割を持っていたという私の考えから、学校機関が塾のような役割として放課後教育などを行うことが、学校教育の新たな可能性を見出せるのではないかということを論じていく。その際、放課後教育などを実践している学校の例や効果も含めていく。

なお、どの章においても、日本国内の学校と、ハワイにおける日本語学校を中心として話を展開していくが、必要な部分だと考えられる場合においては、ハワイにおける公立学校やアメリカ合衆国本土の学校なども含んでいく。それは、アメリカ合衆国の、同化主義から多文化主義へと移っていく過程が、日本語学校だけでは明らかにすることが困難なためである。

 

参考文献

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http://www.asahi-net.or.jp/~cr1h-ymnk/95-12-25.html 「日本語学校「訴訟事件」と日系新聞」

http://www.notredame.ac.jp/~eyukawa/heritage/papers2003/Sasaki2003.html 「3代で消えないJHLとは?――日系移民の日本語継承」

http://www.geocities.jp/lagoon5376/maki/1-2.pdf 「ハワイにおける日系アメリカ人のエスニック・アイデンティティ ―第二次大戦後の日本語教育の変遷を通して−」

http://npoafterschool.org/ 「特別非営利活動団体 放課後NPO アフタースクール」